1.事例紹介
看護師長である私と、病棟で退院調整を中心に行っている看護師(退院調整看護師)とのできごとである。
私は4月に、訪問看護ステーションから消化器外科病棟へ勤務異動となり、数か月後のできごとである。また、退院調整看護師は、現在の部署での経験年数は3年を過ぎた中堅看護師である。
退院調整看護師は、80代女性患者が軽度認知症の夫と二人暮らしであり、在宅でストマの管理ができるよう試 験外泊を計画した。サービス担当者会議を開催し、試験外泊中は訪問看護師がストマの手技を確認することにな った。しかし、試験外泊中のストマの管理は、訪問看護師が全て行い、患者はストマの管理ができていなかった。
退院調整看護師は、病棟で苦労し指導しているにもかかわらず、試験外泊でストマ管理できない事にショックで 頭にきていた。そのため、看護師長に「なぜ訪問看護師は、外泊中に患者のストマ管理ができるように指導をし てくれなかったのか。サービス担当者会議を開催し、試験外泊時に行う事を確認したのに意味がない。」と感情的 に話した。退院調整がスムーズに進まないことに感情がたかぶり、今回の攻撃的な発言となったようである。
看護師長は、「退院調整看護師(彼女)が病棟看護師と訪問看護師との役割の違いが理解できるようにするには どうしたらいいか。今は、彼女が怒っているから何を言っても聞かない」と思った。そして、少しでも訪問看護について理解してもらおうと考え「行った先で何かあり、今回の結果に至ったのではないですか?」と話すが、「師長さんは、以前訪問看護をやっていたので、そっちの見方をしている。」と攻撃的に話をした。看護師長は、「彼女は、自己中心の考え方、周囲が見えないものの言い方を変えるとよいのだが。今回は、訪問看護師の気持ちを理解できるようすぐにでも彼女と一緒に、訪問看護師の所に行き、実際はどうであったのかを聞き、原因を追究するようにしたい。しかし、感情が高ぶっているから無駄かもしれない。少し時間を置いてから対応しよう。」と考えた。
看護師長は、勤務異動後数か月しかたっておらず、彼女の性格を把握できていなかった。また、前看護師長から彼女は、言葉がきつく物事をはっきり言うタイプであり、会話中に言葉を挟むのも難しいスタッフであると聞いていた。看護師長は、彼女との人間関係が未だできておらず、冷静に対応しようとするが、あまりの剣幕に「頭が真っ白」となり上手に言葉がでなかった。
その後、個人面談をする時期となり、彼女と面談することになった。本人は、性格上言葉がきつく物事をはっ きり言うことで勘違いされる癖を理解しており、その点を直したいと思っていることが理解できた。看護師長 は、彼女が攻撃的に話すことで、一生懸命やっている姿を認めて欲しい気持ちがあることを知って欲しいと思っていることを理解した。その後は、彼女とは、お互いを知ることができたので攻撃的に話す事はなくなった。
2. 「考える知性」と「感じる知性」
この退院調整看護師のように、「感じる知性」が優位な場合は、「サービス担当者会議で何が決まったの?」「そ れはどういうものであったの?」「それを実行されてなかったの?」など「~どうだったの?」と尋ね、「それは 訪問看護師の考えで、ストマ管理を行うレディネスが十分ではないと判断したからではないのかしら」と伝える。さらに「退院調整看護師が、患者が自宅でストマの管理ができるよう担当者会議を開き、多職種との連携に力を入れていたことは素晴らしいことだと思うわ。」と本人を認め、外泊前の「考える知性」に引き寄せた方がよい。また、攻撃的ないい方をするスタッフには、師長として何が言いたいのかと考えながら話を聞く習慣を付ける必要がある。攻撃的なスタッフは、自分を承認してほしい気持ちが高いので、あなたをしっかり見ていますよといったパフォーマンスも必要である。
看護師長は、スタッフが攻撃的に語る場合は、頭が真っ白になるという先入観を持たず、これで3回真っ白になったからもう大丈夫だよと言い聞かせる位の冷静さが必要である。また、一緒に感情的になるのではなく、その攻撃的な行動の裏には何があるのかを冷静に分析的に聞く必要がある。看護管理者が部署異動した時、速やかにスタッフ全員の個人面談をし、スタッフをよく知ったほうがよい。その方法として、前看護師長にスタッフの様子を一人ずつ聴くことは、スタッフを知るよい機会となる。しかし、スタッフ個人の評価は、自分の目で確認する必要がある。