看護部長に主張をぶつけた新病棟の主任(Hチーム)

1.事例紹介

 外科と内科の混合病棟を立ち上げるための準備会議に、私は新病棟の主任として出席した。メンバーの看護部長は、新病棟が担う役割や手術患者を受け入れることの重要性を会議で発言した。看護部長は就任2か月目でこの大きなプロジェクトを関係者一丸となって成功させたいと思っており、多少の問題は対処可能と判断し、新病棟開設の障害となる大きな問題はないと考えていたようである。

 一方、私は心配していた。新病棟のスタッフに外科経験者が2名しかいないため、人員配置のバランスが悪いと思っていた。このままでは患者の安全が守れないと感じ、その点を会議で主張するつもりだった。スタッフの経験年数や経験内容をデータにまとめ用意していた。

 会議が始まり私は用意したデータから安全性に不安があると訴えた。他の出席者も同様に危機感を感じてほしいと思った。すると看護部長が、「安全なんてそんなの二の次でいい。オープンするのが大事、そんなこと言っていたら先に進まないのよ。」と興奮して言い放った。

 私は「安全が二の次でいい」と言われてショックだった。会議で理解を得るためには感情的な発言ではだめだと思い、根拠となるデータを示し論理的に発言をしようと会議に向けて準備をしていた。そのため、看護部長の感情的な物言いに驚いた。手術患者を受け入れてほしいという看護部長の強い希望は知っていたが、安全が二の次でよいと言われるとは思っていなかった。私は「何を言っても今は無駄だから、やめといたほうが良いな。」「今は諦めて、時間をおいて別の機会に話し合いをするしかないな。」と思った。本当は、安全性の確保について具体的な検討をして開棟の準備に臨みたかったが、その目的を果たせず悶々とした思いだった。

 私は、看護部長が強い感情を表現した理由を「病棟をオープンしなければならないという焦りや責任があったのではないか。」「就任2か月で部長という役割に慣れず余裕がないのかもしれない。」「人員配置の問題といった痛いところを突かれたと思っているかもしれない。」「同席した外科と内科の部長の前でプライドを傷つけられたと感じたのかもしれない。」などと考えた。

 

2.考える知性と感じる知性

 新病棟の開設のためには、考える知性と考える知性を出し合って妥協案である新たなプランを作らなければならない。新病棟の開設を成功させたい看護部長とそのプランが現実的ではないと心配する主任がいる。この主任の主張と看護部長の主張が交わる点を探るためにはうまく話し合う必要がある。感じる知性でぶつかっている場合ではない。

 あるとき看護部長が「私も人員配置が厳しいのはよくわかっていた。あなたの言っていることも正しいと思うけど、正論を言われると苦しいのよ。」と本音を漏らした。看護部長が「苦しい」と感情を伝えたように、感じる知性が緩衝材となることで対立せずに歩み寄れるのかもしれない。決裂するのではなく近寄っていくことが大切である。

 その後、やり取りを繰り返す中で、「ここまで考えたけどわからないので助けてほしい。」と主任が看護部長に訴えると親身に対応してくれた。これでうまくいくと気づく。理詰めで感情的な発言ではなく、感情を伝えるとよいことがわかった。看護部長は、「現場を知っている主任の主張はわかるが、経営のためには新病棟の開設は最優先だった。」と語った。どこまで主任の主張する現場の事情を酌むか、自分の主張をどうやって納得してもらうかを看護部長は考えていた。

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