いつも機嫌の悪いベテランナースに困っている看護師長(Fチーム②)

1.事例紹介

 看護師長である私は、経験20年目のベテランナースへの対応に困っていた。ベテランナースはいつも朝の機嫌が悪い。出勤しても挨拶をせずパソコンに向い、仕事を始める。自分の都合で仕事を判断するので、仕事は効率的で残業もない。好きな仕事は進んでするが、嫌いな仕事や業務範囲外の仕事は拒否する。委員会の委員として仕事をしっかり行い、看護実践においてもこれまでの経験や知識を活かしているが、同じ病棟で働くスタッフとのコミュニケーションは十分ではなく、協調性に欠ける。緊急入院のような突然の依頼は引き受けてくれないため、スタッフ全員が彼女の顔色をうかがいながら仕事をしている。

 目に余る行動をそのままにはできないと私は思い、仕事の仕方を改めるように何度か指導をしてきたが、ベテランナースの行動は変わらない。むしろ私が指導をした後は不機嫌さが増し、周りのスタッフは辟易している。私は最近ベテランナースに何を言っても無駄だと諦めている。

 スタッフは、「一緒の勤務だと気分が滅入る。」「勤務表が出ると、夜勤が一緒かを確認する。」「夜勤が一緒だと緊張しすぎてミスを起こすのではないかと不安になる」とベテランナースに対する不満をよく話している。しかし、ベテランナースの態度は変わらず、職場の雰囲気が悪くスタッフが委縮するので安心して仕事ができない。病棟ではパートナーシップ体制をとっているが、スタッフはベテランナースに相談できず、コミュニケーションエラーによるインシデントが発生し安全上の問題が生じている。

 

2.考える知性と感じる知性

 この事例では2つのアプローチができる。それらは「感じる知性から入る方法」と「考える知性から入る方法」である。

 感じる知性から入る場合は、不機嫌さに焦点化して「今日は表情が硬いね、体調が悪いの?」と挨拶してみる。もしかしたら毎朝の機嫌の悪さの原因が低血圧ということもありうる。体調が原因であれば不機嫌なのも理解できる。朝起きてから出勤するまでに生じる疲労が原因ということもありうる。子供や夫を送り出し家事をしてから出勤する人、家族の看護や犬の世話をしてから出勤する人、満員電車のストレスに耐えて通勤している人など、いろいろある。朝の機嫌の悪さを自覚してあえて不機嫌でいるような場合は「ちょっと近寄りがたい雰囲気だけど、ご機嫌斜めなの?」と声をかけてみるのもよい。「今日も機嫌が悪そうだね。」と感じる知性で問いかけ、相手が自分の感情に気づけるように関わる。

 考える知性から入る場合は、インシデントが発生し安全上の問題が生じていることを取り上げ、「スタッフがあなたの経験や知識から学びたいと思っているが、どうも尋ねるのが苦手なようである。最近発生しているインシデントに対処するためにあなたの力を貸してほしい。」と一対一で話してみる。委員会の委員として役割を果たし、看護実践でも20年の経験と知識を活かして、医療安全においてもベテランとしての力を発揮してもらいたいという考えを伝える。医療安全をテーマとして会話をすることで、彼女の行動のもとにある意味や意図、あるいは何に価値を置いているのかを知ることができる。

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