第2章にお付き合いいただきありがとうございました。
今回の企画者の意図は、「管理者は、相手の感情に働きかえる力を持つことが重要だと理解できる」ということと「チームメンバーが気持ちよく目標に向けて取り組むことができるよう、管理者としてどのような働きかけができるのか語り合い、気づきを得る」ということでした。冒頭にニューバーションの企画ですとお話ししましたが、参加された皆様がこの目標に達したかどうか甚だ疑問を持ちながら、反省ながら帰路につきました。
反省点は、感情に焦点を当ててそれを語り合うことで気づきを得ようとしたことと考えました。日頃看護師は、頭に来ても笑顔でいたり、悲しくても泣いてはいけないと思っていたり、感情を押し殺して仕事をしていることが多いのですね。「感情は抑え込んできた」とか「思い出したくもない感情がある」と語った方もおられたようです。つまり、蓋をしてきたあるいは、蓋をしておきたいことの蓋を敢えて開けて、それを言葉にして、お互い学ぶという課題を、「出会い」からわずか2回目のセッションでは難しかったのではないかと、反省会(皆さんがお帰りになった後に、スタッフで実施後の振り返りを行っています)で話題がでたわけです。
ですから、この場を借りて少し相手の感情を知るということについて私なりの解説をしておきたいと思います。
手洗い場の例でも示したように、「悔しい!」という感情を抱えている人に、新しい課題を提案することは、たとえその提案が正しいことであっても、その相手は受け入れないといことです。その前提には、B師長はA部長に、自分のことをわかってもいない人に否定されたと受け止める気持ちがあったわけです。もしかしたら、BとAが、気心が知れている間柄であれば、Aが急に新しい課題を振ったとしてもBは「もう、しょうがないわねえ、いつもAは急にいうんだから…」と言いながらも、指示された課題にすぐに取り組むかもしれません。「悔しい!」と「しょうがないわね」の違いは、互いの信頼感に基づく、心の距離の違いなのだと考えます。
心の距離を近づけるためには、相手がどのようなものの考え方をして、どのように仕事をしている人なのかを理解することが必須です。これも反省会で教わったことですが、相手を理解するには「分析的理解」、「評価的理解」、」「同調(同情)的理解」、「共感的理解」という段階があるのだそうです。それは、名前や出身地を知る段階から、いい人かもしれないと評価して、抱えている困難な状況が分かったりすると「かわいそうねえ」と他人事ながら感じ、さらには相手の立場や価値観を同じ目線で理解する段階に深まるということです。
管理者としてすべてのスタッフを共感的に理解するまで心の距離を近づける必要はないと思いますが、少なくとも、特に扱いにくいなあと感じているスタッフに対しては、同調的理解は必要なのかもしれません。「のれんに腕押し」なスタッフについて、ネガティブな評価的理解で留まってはいませんか。評価的理解のあたりで難渋しているときには、「この人、どんな気持ちで仕事しているんだろう」と考えてみたり、対話をしてみることで、ポジティブな評価的理解につながる道が見えてくるかも知れません。それは二者間の心の距離の在り方に新たな局面を示してくれる可能性があります。「この人って〇〇な人と」という申し送りをうけて、出会いの時からレッテルを張らないでください。自分の心で、その人の感情に触れてみると光が差してくるかもしれません。
看護管理者が遭遇する対応不可能なスタッフは、医療安全管理の価値観とせめぎ合うことになりますから、感情に働きかけるだけの方策では解決できないと思います。大事なことは、感情にも働きかけることで、そうすることで、予知される危険に注意喚起を誰でもができるような心地よい組織につながっていくのだと考えています。対話するのはエネルギーを要しますが、「急がば回れ」とよく自分に言い聞かせていたことを思い出しました。

yamada

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